バトー役:松田健一郎さん / トグサ役:新垣樽助さん / パズ役:上田耀司さん(以下、敬称略)
――『新劇場版』で演じるにあたって心がけたことを教えてください。
- 松田:
- バトーは戦闘中も結構、皮肉交じりの軽口を叩くんです。ただ軽口といっても、そこにはちゃんと緊張感もなくてはいけないわけで、そのバランスには気をつけました。戦闘中に軽口を叩けるということは、一方で戦闘で生き残るための努力もものすごくやっているはずですから、命がけでやっているということを忘れないようにしようと。もう一つ気をつけたのは、少佐との距離ですね。ほかのメンバーと違って、唯一対等でいられる関係ではあるんで、その距離感も意識しなくてはいけないなと。まあ実際には言いくるめられたり、ゴースト侵入キーでパンチもらったりしているんですが(笑)。それでも少佐に対する余裕は忘れないようにしています。
- 新垣:
- 『ARISE』の時から意識をしていたことですが、トグサは生々しいところ、人間くさいところを大事にしたいと考えています。ほかのメンバーと違い生身ですから、戦闘の中でも体が傷ついたり命を落としたりしてしまうかもしれない危機感を人一倍感じているはずで、それを忘れないようにしようと。トグサはみんなと違って腕がとれたら戻ってきませんからね……。だから戦闘ではどこまで役に立ってるのかな、と思うところもあるんですが(笑)、それ以外の捜査の部分含めてチームには必要な存在なんだろうと。生きるための理由を求めているメンバーの中で、一番自然に生きている男なので、その自然な感情を大切にしたいと思って演じました。
- 上田:
- 逆に僕は義体であることの悲壮感とかそういうことは意識しなかったです。義体や電脳は未来であればもう普通のことになっているわけですし。これは仕事についても同じで、命がけの側面はあるけれど、同時にパズにとっては日常でもあるわけで。むしろ地に足つけて生きてる感じを随所で出せたらと思って演じていました。だから、情報を伝達するセリフはちゃんと言わなくちゃいけないんだけれど、大仰な感じにならないように意識しました。
――パズは「もてる男」という設定もありますがそのあたりは意識されましたか?
- 上田:
- パズって「いてほしい」と思われているところに、パッといることができる男なんですよ。
- 松田:
- マメな男なんだ(笑)。
- 新垣:
- この人いつも助けてくれる……みたいな。
- 上田:
- そうそう。だからルックスも大事かもしれないけれど、僕は今回のパズはそういう男だろうと思って演じてました。「俺は男前だろ」っていうんじゃなくて、「この人、頼れる……」っていうところでキュンとさせられればなって思ってた(笑)。「あれ、軽いな」と思ったら気づくと荷物持ってくれている、とかね。
- 松田:
- あ~、それは確かにモテますね(笑)。
――『ARISE』と『新劇場版』では、はぐれものたちがひとつのチームになっていく過程も見どころの一つだと思います。演じていてチームワークが固まってきなと感じた瞬間はありますか?
- 新垣:
- そうですね……、チームワークが固まった、というか、『新劇場版』にきてトグサってすごくいじられキャラになっているんですよ(笑)。
- 上田・松田:
- 笑
- 新垣:
- だから、みんなトグサをいじることで団結してない? という気持ちはあります(笑)。
- 松田:
- いやいやいや(笑)。みんなトグサがかわいいんですよ。新米クンってね。でも、『ARISE』で、まだ予算がとれない時期に、穴倉みたいな隠れ家でダべっている時なんかはだんだんチームになってきた感触はありましたね。
- 上田:
- 「この瞬間から仲間になりました」みたいな、わかりやすいシーンはないんだよね。でもみんなそれぞれの持ち場で高いレベルのプロフェッショナルだから、一度一緒にやればこいつに任せて大丈夫っていう感覚はすぐに生まれたんじゃないかと思います。だからこそトグサがおもしろいんだよね(笑)。なんでコイツはここにいるの? という。
- 新垣:
- 援護しろって言われても、銃弾の雨嵐の中じゃあ、生身のトグサが一番危ないからね。
- 上田:
- でも『新劇場版』のようにかなり電脳社会の本質に踏み込んだ事件を見ると、やっぱりチームに生身のトグサを必要とする意味があると、素子も感じているんじゃないか、と思うよね。
- 松田:
- トグサ自身は自分がなぜチームにいるかがわからないんですよね。だから、かえって、みんなのために何かやったる!っていう熱さがある。
- 新垣:
- そう。なぜそこにいるのか答えがわからないからこそ、一生懸命働いているっていうところは間違いなくある。
- 上田:
- 草薙をはじめ、義体化してると忘れてしまうことも多いから、それを気づかされるためにトグサがいるんじゃないか、って思うところはあるよね。
- 新垣:
- チームの中の安全装置みたいな存在なのかもしれませんね。
――トグサが生身のサイドにいるとすると、草薙素子は正反対の位置にいるキャラクターですよね。
- 松田:
- 素子って実はリーダーじゃないと思うんですよ。ただ素子は、それぞれのキャラクターが必要とするものを持っている。
- 新垣:
- チームのメンバーは、みんな自分を必要としてくれる存在を求めていて、素子が中心にいるのはそこに尽きるんじゃないかと思います。生きがいを用意してくれた人というか。
- 松田:
- 『新劇場版』には素子がこのチームにいなくてはならない理由が描かれるシーンがちゃんとあるんですよ。
- 新垣:
- ありますね。
- 上田:
- うん。やっぱり僕らとちょっと違う景色を見ているんですよ、素子は。だから、なかなか気づけない目標を、パッとみんなに示したりする。ただそこにどうやっていくか、はしごをかけるのは各自で(笑)。そういう関係なんです。
- 新垣:
- 愛情表現が下手なんですよね。だから、自分の中にあるボキャブラリーで表現しようとすると、すごく厳しい言い方になったりする。
――『攻殻機動隊』に参加してみて、作品の魅力はどこにあると感じましたか?
- 新垣:
- 死後の世界、目には見えない世界 そういうものをデジタルな言葉に置き換えていくところがおもしろいと思いました。ボットという言葉が、単なるデジタル用語ではなく、もっと深く広い意味を持っているんだって考えさせられるところが魅力ですね。
- 上田:
- 電脳世界の描写にしても、原作が描かれた当時より、肌身に感じられるようになっているところがおもしろいですよね。国境を越えて、人がつながったり企業がビジネスをしたりして。そうなると国家ってなんだろう、人間の主体とは何か。そういうことを考えざるを得なくなる。現実にもそういうものを突き付けられている時代に、こういう作品を演じることができたのはよかったと思いました。
- 新垣:
- 光栄でしたね。
- 松田:
- 僕はまたちょっと違って、命の可能性や魂というものがなんなのかを考えさせられました。脳はシナプスの連なりで意識はそこに生まれるわけですが、じゃあ、「命」というものはどこからやってくるのか。ネットと意識が限りなく地続きになった時に、魂や命、個人というものはどうなっていくのか。そこが『攻殻機動隊』の魅力で、それはこれまでの各作品の中でも連綿と描かれてきたことだと思います。
――松田さんは、元々『攻殻機動隊』をお好きと聞きました。松田さんが各シリーズをおすすめするとしたら、どんなふうにおすすめしますか?
- 松田:
- そうですね……。やはり原点を知るなら原作を読まずにはいられないですよね。すべてがそこから生まれていますから。深く知りたい方はまず原作から入ってください。では、映像作品はどれから入ったらいいんだろう、という方は、普段みている映像作品と近いものを選ぶといいと思います。
――なじみがある雰囲気のものを見るといいということですね。
- 松田:
- そうです。SF映画としてのスケール感、スペクタクルな映像美を楽しみたければ『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』や『イノセンス』です。この2作は哲学的にも深いところがあるので、いろいろな楽しみ方ができます。TVシリーズの『S.A.C.』は各話完結のエピソードなのでどこから見てもおもしろいし、シリーズの“引き”になっている「笑い男事件」を追いかけて、続けてみていく楽しさもある。『S.A.C. 2ndGIG』は『S.A.C.』よりもうちょっと連続性がつよくて、ラブストーリーの趣がありますね。
――すると『ARISE』はどうなりますか?
- 松田:
- アメリカドラマのようなサスペンスとアクションを楽しみたければ『ARISE』でしょう。そして、これまで培ってきた『攻殻機動隊』の魅力を引き継ぎながら、原点に返るのが『新劇場版』ですね。ですから『新劇場版』から見始めるのはアリだと思います
――ではいよいよ『新劇場版』の公開も迫ってきていますが、待ちわびているファンの方に一言お願いします。
- 上田:
- 『新劇場版』では、『ARISE』でこれまで積み残してきた謎も解けますし、映像もダイナミックなアクションがたくさんあります。楽しみにしてもらえれば。
- 新垣:
- 『新劇場版』と謳っているのは、やっぱり劇場で見ていただきたい作品だからなんです。映像のスケール感、迫力ある音響は是非、劇場で楽しんでいただきたいです。
- 松田:
- 『新劇場版』は、みんなで見た後、いろいろ解釈を語り合える作品なんです。キャスト同士でもアフレコの間にいろいろ語り合ったくらいですから(笑)。
- 上田:
- そうそう(笑)。
- 新垣:
- ランチ食べながら、みんなで「これはこういうことじゃないか」とかいろいろ話しましたよね。
- 松田:
- (笑)キャストもお客さんになって楽しんでしまうような作品ですんで、ぜひ皆さんにも楽しんでいただければと思っています。
――ありがとうございました。
(インタビュー・文:藤津亮太)