現実から読み解く 攻殻機動隊ARISE GHOST IN THE SHELL の世界 Vol.02 週刊アスキーに掲載され、話題を呼んだ企画を3週連続で掲載!!

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会


Vol.02:テクノロジーの進化とフィクションの貢献──量子コンピューターはすでに投資対象になっている



いまはデジタル時代の“ベル・エポック”では?


角川アスキー 総合研究所 遠藤諭 主席研究員 角川アスキー総合研究所 遠藤諭 主席研究員

現代では“絵空事”のようにも思える技術が実現する先に、『攻殻機動隊ARISE』の世界が広がっていると遠藤さんは語る。

──攻殻機動隊の世界にいまの世の中が近づいているのは、フィクションが科学者たちに影響を与え、現実をドライブしているからではないですか?

遠藤 ルネッサンス期のレオナルド・ダ・ヴィンチの素描には、ヘリコプターとか計算機ではないかというモノも描かれていますよね。それが産業革命の時代になって、これは本誌の巻末コラムでも触れた話なんですが、ジュール・ヴェルヌ※1や米国の“ダイム・ノベル”とよばれた大衆小説で“発明”が人気テーマになってくる。
 私は、その中でも“フランク・リード”(Frank Reade)という主人公が発明した“スチームマン”という蒸気機関式のロボットが好きなんです。19世紀の終わりごろから20世紀の初めは“ベル・エポック”と呼ばれています。カレル・ゼマンというあの時代を描くのがうまい映画監督も大好きです。蒸気機関で全部やるのはとても無理があるのに、じつにおおらかに自由に夢を見ている。
 ひょっとしたら、20世紀の終わりから21世紀初めのいまは、“デジタル時代のベル・エポック”とあとで呼ばれるようになるんじゃないか。蒸気機関でロボットをつくるようなことを、シリコン半導体のノイマン型コンピューターを使って手仕事でプログラムを書いて動かしている。WindowsやiPhoneなんてモノが、飛行船のように顧みられるかもしれない。

※1 フランスの小説家(1828〜1905年)

──現代でも、“絵空事”のような技術が突然、実現することはあるかもしれないですね。

遠藤 そういうことですね。現実に、量子コンピューターというのは、本当に実用化できるのか、いつできるのかわからない分野だったと思うのですが、昨年10月、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOとCIAの投資部門が、量子コンピューターを開発するカナダの企業に3000万ドルの投資をしました。D -Waveという名前のこの企業の製品は、グーグルとNASAが共同で進める量子コンピューター研究でも使用されることになっている。ちなみに、昨年のノーベル物理学賞は、量子コンピューターをつくるために重要な意味をもつ発見をした2人の研究者に贈られましたよね。

──実用化された場合、私たちにはどういう影響が?

遠藤 量子コンピューターの実現がもたらすのは、単にコンピューターの計算能力が飛躍的に向上することだけではない。今年1月の『フォーブス』誌でそれを書いていた人がいましたが、人間が世界中のあらゆる情報に一瞬でアクセスするなんてことも可能になるという意見もある。膨大な情報にリアルタイムでアクセスしながら、とるべき行動を決めるようになる。すると今度は「人間の脳や肉体がいまのままでいいのか?」となる。それこそ、まさに攻殻機動隊が描いている世界じゃないですか。

D-Wave社の公式サイト
http://www.dwavesys.com/
量子コンピューターの実用化を目指すカナダの企業。アマゾンやグーグルなど、名だたる企業と手を組んでいる

提供:バンダイビジュアル

Vol.3は8月2日(金)にアップ予定です。お楽しみに!
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