サイバー犯罪とハッカーのいま──〝攻殻〟の描く世界に現実が近づいている
角川アスキー総合研究所 遠藤諭 主席研究員
今回は、遠藤さんにテクノロジーやネットの現在から見る『攻殻機動隊ARISE』という視点で語ってもらった。
──『攻殻機動隊ARISE』では、〝サイバー犯罪〟が重要なテーマのひとつですね。最近のネットの在り方やセキュリティーについて、遠藤さんはどういう考えなんでしょうか?
遠藤 サイバーセキュリティーに関する問題が現実的になって、あまりにサラリとNHKの夕方のニュースなどで取り上げています。中国や米国がサイバー戦争についての発言をしていることも、すべてセキュリティーに関係しているのですね。
ところが、先日、北米在住の専門家とじっくり話をする機会があったのだけど、すでにネットワークは戦場だという見方になってきている。システム脆弱性についての情報を知ったら、日本ならIPA(※1)みたいな組織に申し出るのが常識だったのが、ある国の企業は、そうした情報を取得して国家に対して販売しているという。ネットセキュリティーの世界は、わずか数年前の常識でさえ通用しなくなっていますね。
──日本にもそうした変化はありますか?
遠藤 毎年、会津大学で開かれる〝パソコン甲子園〟という高校生向けのコンテストの審査委員をやっていますが、プログラミング部門の水準はどんどん上がってます。実際、数学系の雑誌をパラパラとめくったら「こないだ懇親会で話をしたあの高校生じゃん」みたいに、国際的なコンテストでも活躍する子が出てきている。彼らもきっと攻殻機動隊シリーズを観て育っているのだろうし、今回の新作も現実の延長線上にあると解釈できる。
そこでも話題にしていたのですが、昨年5月にモスクワで開かれた情報セキュリティーに関する国際会議〝Positive Hack Days 2012〟で行なわれたコンテストで、日本の大学生チームが9位に入った。日本のセキュリティーの世界としては画期的。これは、暗号ファイルを解読したり、模擬的にハッキングを行なう競技なのですが、つまり、ハッキングの技術がすなわち情報セキュリティーを確保するためにも必要なんですね。
──技術を追求するハッカーを目指す人も増えてます?
遠藤 そう。いま日本では、ハッカーが増えているという議論がある。その背景として、先ほどの情報セキュリティーの専門家はコンテンツの影響が大きいと指摘するんですね。ドラマ『ブラッディ・マンデイ』などの作品で、10~20代が興味をもっている。じつは、モスクワのコンテストに参加したチームの名前が〝Tachikoma(タチコマ)〟なんです。『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』に出てくる多脚戦車ですよね。サイバー犯罪、国家と企業、そして個人も、攻殻機動隊の描く世界に現実が近づいている。そんな中で、今回の新作でスッとひと続きの歴史の中でとらえられる、いろんな意味でいまの時代に求められている作品とも言えますね。
※1 独立行政法人 情報処理推進機構
新登場メカ〝ロジコマ〟
↑ シリーズではおなじみのメカキャラが今回も登場。自身の指揮官を識別し自立支援する程度の発展型の人工知能は持ち合わせる。
迫力の肉弾戦シーンも!
↑ 草薙素子と肉弾戦を繰り広げる新キャラ・ライゾー。スピード感あふれる戦闘シーンの描写も、攻殻機動隊シリーズの魅力のひとつだ。
Vol.2は7月26日(金)にアップ予定です。お楽しみに!